自動車損害賠償責任保障法(自賠法)の特殊な仕組み②

前回の続きとなります。

 

交差点での事故で当事者双方が青信号であると主張している場合,民法の大原則に従えば,双方ともに相手の過失を証明することが出来ないため,請求は双方とも否定されるはずであることを前回ご説明しました。

 

しかし,交通事故の場合,自動車の運転手等には,民法の規定とは別に,自動車損害賠償責任保障法(自賠法)の規定に基づいても,責任を負うことになります。

 

自賠法3条は以下のように定めています。

 

◎自動車損害賠償責任保障法3条

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。

ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。

 

ざっくり言えば,交通事故で被害者にケガを負わせてしまった加害者が,被害者からの損害賠償請求を免れるためには,加害者の側で,自分には過失がないこと,今回の事例では自分に信号無視がなかったこと(被害者が信号無視したこと)を証明しなければいけないということに定めています。

 

したがって,どちらが青信号だったのか証明できないBは自分の無過失を証明できないため,Aに生じた損害を賠償する義務を免れることが出来ません。

 

一方,自賠法3条に基づいて賠償請求ができるのは,自賠責保険の加入対象となる車両(自動車やバイクなど)によってケガをした場合に限られます。

 

今回のケースだと,Aが乗っていたのは自賠責保険の加入対象外である自転車です。

 

そのため,Bは,ケガに対する損害の請求であっても,原則通り民法709条によって請求するほかありません。

 

その結果,どちらが信号無視かわからない場合は,Aの過失の証明ができないため,Bの請求は否定されることとなります。

 

また,自賠法3条は,自動車との事故で被害に遭った方の人的損害(ケガによる損害)についての請求についてのみ適用されます。

 

つまり,車の修理代など物的損害の請求については適用がなく,原則通り民法709条に基づいて請求するほかありません。

 

そのため,相手の過失を証明できなければ請求は否定されます。

 

【事例】のA・B双方の物的損害の請求が否定されるのは,このためです。

 

以上から,Aには人的損害の150万円の請求が認められ,一方Bは,人的損害・物的損害ともに請求は認められないことになります。

 

なお,上記の結論は,裁判所が審議を尽くしてもどっちが青信号かわからない場合です。

 

裁判所も,当事者双方の証言を聞いて,できる限りどちらの言っていることが正しいか見極めようとします。

 

信号無視に限らず,過失割合に争いあるときは,一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。