後遺障害が複数認められる場合の等級認定の仕組み

交通事故に遭ってしまい、治療を続けても症状が残り完治しなかった場合、後遺障害が認定され、その等級に応じた賠償を受けることができる場合があります。

 

後遺障害はケガをした部位や症状ごとに認定されるため、ひとつの交通事故で複数の後遺障害が認定されることもあります。

 

その場合、ひとつの後遺障害が残る場合よりも、複数の後遺障害が残るほうがケガによる苦しみや日常生活の負担・不自由は大きいため、それに応じた賠償を認める必要があります。

 

そこで、後遺障害を認定する自賠責保険では、複数の後遺障害が認められる場合には一定のルールにしたがって「併合」という処理を行い、等級を繰り上げることで適切な賠償が確保されるような仕組みを設けています。

 

後遺障害が複数認められる場合の等級認定は、自動車損害賠償保障法施行令2条の3ロ~ホに定められています。

 

①第5級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合

→最も重い等級から3つ繰り上げます。

 

②第8級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合

→最も重い等級から2つ繰り上げます。

 

③第13級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合

→最も重い等級から1つ繰り上げます。

 

④第14級の後遺障害が2つ以上ある場合

等級の繰り上げはなく、第14級のままとなります。

 

【具体例】

A、後遺障害等級4級と5級に認定した場合

→5級以上が2つ認められていることから,①のルールにより、4級から3つ繰り上がり、併合1級が認定されます。

 

B、後遺障害等級5級、8級、12級の3つが認定された場合

→8級以上が2つ認められていることから、②のルールにより、5級から2つ繰り上がり併合3級が認定されます。

ここから,3級と12級が認められているから③のルールが適用されて,さらに等級が繰り上がる…ということはありません。

 

C、後遺障害12級と14級が認められた場合

等級の繰り上がりはなく、12級のままです。

 

このほか、後遺障害の等級認定のルールはいくつか存在しており、複雑で専門的な内容のものもあります。

交通事故に遭い、複数の症状に苦しんでいる方は、後遺障害に詳しい弁護士にまずはご相談ください。

ライプニッツ係数とは

みなさんは「ライプニッツ係数」という用語をご存じでしょうか。

 

ライプニッツ係数とは、交通事故などの人身障害事件における損害賠償のなかで、長期に発生する将来の介護費用や就労機会喪失や減少による逸失利益など、時間と関係する賠償金を一時金に換算する計算方法です。

 

交通事故に遭った場合に相手に請求できる賠償内容は、すでに発生した損害だけに限られず、将来発生するであろう損害も請求できる場合があります。

 

代表的なものとしては、後遺障害が残ってしまった場合に、働く能力が下がってしまい、将来の収入が減少されることが見込まれる場合の、本来得られるはずだった収入(逸失利益)などがあります。

 

逸失利益が存在する場合に、たとえば1年間あたり100万円の減収が5年続くようなケースを想定すると、100万円×5年=500万円の賠償が請求できそうですが、裁判所はそのような考え方をとっていません。

 

なぜかというと、損害賠償請求が認められると、5年間かけて得られる500万円を前倒しでもらえることができるため、この500万円を資産運用するなどして増やすことができれば、事故に遭わなかった時と比べて、事故に遭ったことで5年後に逆に儲かってしまうという事態が生じ得ることになります。

 

裁判所は、そのような結果にならないよう、運用益も含めてトータルで500万円になるよう調整(「中間利息控除」といいます)を行うこととしており、その計算に用いるのがライプニッツ係数です。

 

ライプニッツ係数は法定利率を基準に設定されており、現在の日本の法定利率は5%なので、これを前提にライプニッツ係数は設定されています。

 

たとえば、5年のライプニッツ係数は4.3295であり、さきほどの例でいうと、100万円の減収が5年続く人の損害賠償額は、100万円×5年ではなく、100万円×4.3295=432万9500円であると裁判所は考えます。

 

私のような交通事故、特に後遺障害を数多く取り扱う弁護士だと、見慣れない人には数字の羅列にしか見えないライプニッツ係数も、3年だと2.7232、5年だと4.3295・・・という具合によく使う年数の値は暗記してしまっています。

 

ところで、2020年4月から民法改正により法定利率が変更され、法低利率に基づいて計算されるライプニッツ係数も、これに伴い一新されることとなります。

 

法定利率が下がるとライプニッツ係数は大きくなります。

 

たとえば5年のライプニッツ係数は法定利率が3%だと4.580となり、さきほどの例だと、賠償金額は432万9500円から458万円と20万以上増えることとなります。

 

従来の数字の暗記が全く役に立たなくなるのは残念ですが、交通事故被害者にとっては非常に有利な変更となっているので、新しいライプニッツ係数を武器に交通事故案件に取り組んでいきたいと思います。

自賠責保険の支払基準が改正されます。

1 自賠責保険の支払基準の変更

自賠責保険は、自動車を運転する場合に必ず加入する必要がある、強制加入の保険です。

 

交通事故に遭った場合、被害者は、この自賠責保険から、一定の支払基準に従って、慰謝料や休業補償などを受けることができます。

 

この自賠責保険の支払基準が、2020年4月1日から改正される予定です。

 

改正の理由は、2010年に行われた前回改定から10年が経ち、平均余命,物価・賃金水準,支払実態を反映する必要が生じたためです。

 

2 変更内容

支払基準の変更点は以下のとおりです。

 

①入通院慰謝料

1日4200円→4300円

 

②休業損害

1日5700円→6100円

 

③入通院中の看護料

1日4100円→4200円

 

④自宅看護料・通院看護料

1日2050円→2100円

 

また、後遺障害慰謝料の金額も13,14級を除いて増額となっています。

 

別表第1(要介護の場合)

第1級 1,600万円→1,650万円

(被扶養者がいる場合は1,800万円→1,850万円)

第2級 1,163万円→1,203万円

(被扶養者がいる場合は1,333万円→1,373万円)

 

別表第2

第1級 1,100万円→1,150万円

(被扶養者がいる場合は1,300万円→1,350万円)

第2級 958万円→998万円

(被扶養者がいる場合は1,128万円→1,168万円)

第3級 829万円→861万円

(被扶養者がいる場合は973万円→1,005万円)

第4級 712万円→737万円

第5級 599万円→618万円

第6級 498万円→512万円

第7級 409万円→419万円

第8級 324万円→331万円

第9級 245万円→249万円

第10級 187万円→190万円

第11級 135万円→136万円

第12級 93万円→94万円

 

支払基準が上方修正されたことで、手厚い保護を受けることが可能になりました。

 

ただし、自賠責保険には支払の上限額があり、傷害部分については120万円、後遺障害部分については等級に応じて金額が定められています。

 

今回の改正では上限額の変更はないので、大きな事故の場合は結局上限額に引っかかってしまい、賠償額が変わらないことがあります。

 

また、増額になったものの、弁護士基準(裁判所基準)と比べると、自賠責保険の支払基準は低額となっています。

 

そのため、保険会社が自賠責保険の基準で示談金を提案してくる場合は、弁護士が交渉すればさらに増額になる可能性がありますので、是非一度相談してみてはいかがでしょうか。

交通事故証明書の内容・入手方法

1 交通事故証明書とは

交通事故証明書とは、交通事故は発生したことを証明する公的な書類です。

 

交通事故が発生した場合、必ず警察に事故の発生を届け出なければいけません。

 

警察に届け出た後、警察による現場確認が行われ、事故の当事者や発生状況、免許証や自賠責保険の証書などが確認されます。

 

その内容を簡潔に記載したのが交通事故証明書です。

 

2 交通事故証明書の入手方法 

交通事故証明書は各都道府県にある自動車安全運転センターに申請することで入手できます。

 

ちなみに、事故を起こした場所のセンターでなくても申請を受け付けてもらうことができ、たとえば、東京にお住まいの方が地方で事故を起こした場合でも、東京のセンター宛に手続きを行うことができます。

 

申請のための書類は警察署や一部の交番にも置いてあります。

 

また、交通事故の被害者本人であれば、インターネットを通じてオンライン申請を行うこともできます。

 

そのほか、事故の当事者が任意自動車保険に加入している場合は、保険会社が事故直後に入手していることが多く、連絡すれば写しを交付してくれることもあります。

 

3 交通事故証明書の注意点

⑴ 人身事故と物件事故

交通事故証明書には、「人身事故」と「物件事故」の区別が記載されています。

 

物件事故のままだと、被害者は怪我を負っていないのではないか、あるいは怪我軽いのではないかと後々誤解されてしまうことがあります。

 

人身事故に切り替えるためには、医療機関発行の診断書を警察に提出することが必要です。

 

⑵ 当事者欄の「甲」と「乙」

交通事故証明書には事故の当事者がそれぞれ記載されていますが、加害者(過失が大きい人)が「甲」の欄に、被害者(過失が小さい人)が乙欄に記載される取り扱いになっています。

 

自分は被害者だと思っていたら、自分の名前が「甲」の欄に記載されているというような場合は注意が必要です。

 

また、同乗者は「〇の2」と記載され、複数の車両が絡む事故だと「丙」「丁」と増えていきます。

 

⑶ 証拠としての価値は必ずしも大きくない

交通事故証明書は公的な機関が作成したものであり、文書としての一定の信用性が認められます。

 

しかし、交通事故証明書の記載は極めて簡潔なもので、詳しい事故の状況や当事者の言い分、被害者の怪我の重さなどは交通事故証明書から判断することができません。

 

そのため、事故の相手と事故状況等を巡って争いになった場合は、交通事故証明書の記載だけに頼らず、様々な証拠を収集することが必要になります。