今年もよろしくお願いいたします。
東京の弁護士の伊藤です。
今回は交通事故の賠償問題の解決方法についてお話させていただきたいと思います。
交通事故の賠償問題は,保険会社と話し合い,和解によって解決するケースが最も多く,かつ,それが一番望ましいものではあります。
ただ,どうしても当事者のどちらかが話し合いでは納得いかず,和解できないことがあります。
その場合に,裁判を起こして,裁判所の判断を仰ぐことも一つの選択肢です。
しかし,そのほかの有力な解決手段として,交通事故紛争処理センターに和解のあっせんを申し立てるという方法があります。
交通事故紛争処理センターは,嘱託弁護士が和解のあっせんを行ってくれる裁判外紛争解決機関(ADR機関)のひとつです。
紛争処理センターの手続きは,裁判による解決とはまた異なるメリットがありますので,今回はそのメリット・デメリットを少しご説明させていただきたいと思います。
第1 紛争処理センターを利用するメリット
1 早期解決が期待できる
裁判になった場合,通常6カ月程度,長期化した場合は1年以上解決までかかってしまうことも少なくありません。
紛争処理センターを利用する場合,7割以上が3回の期日までに和解が成立しており,裁判と比べると早期解決が期待できます。
2 紛争処理センターの審査結果(裁定)は保険会社を拘束する
紛争処理センターにおいては,基本的には和解による解決を目指しますが,当事者のどちらかが納得できず合意に至らない場合,被害者が審査を申し立てると,紛争処理センターに裁定案を下してもらうことができます。
紛争処理センターと協定を結んでいる保険会社や共済組合は,この裁定案に拘束され,被害者が裁定案を受け入れれば,保険会社は裁定案に従って賠償する義務を負います。
紛争処理センターと協定を結んでいるのは以下の保険会社,共済組合等になります。
①日本損害保険協会に加盟する保険会社
②外国損害保険協会に加盟する保険会社
③全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)
④全国労働者共済生活協同組合連合会(全労済)
⑤全国トラック交通共済協同組合連合会(交協連)
⑥全国自動車共済協同組合連合会(全自共)
⑦全日本火災共済協同組合連合会(日火連)
3 治療費の認定が裁判所よりも緩やかな傾向にある
近年では,交通事故患者の治療費について,裁判所は治療の必要性を厳格に判断する傾向が強くなっています。
そのため,保険会社が医療機関にすでに支払った治療費の一部についても,本当は保険会社が支払う義務はなかったと判断することが増えています。
この場合,支払う義務のなかった治療費は,保険会社の過払いという扱いとなり,最終的な賠償金額から過払い分を差し引くという,被害者にとって不利な取り扱いがなされます。
一方,紛争処理センターは,治療費については裁判所と比べると緩やかに必要性を認める傾向にあります。
そのため,治療費の必要性が争われることが予想されるケースでは,紛争処理センターに和解のあっせんを申したてる方が有利なことがあります。
第2 デメリット
一方で,紛争処理センターの利用が効果的でないケースもあります。
1 遅延損害金等を認めてくれない
裁判を行った場合,遅延損害金や弁護士費用は,損害の一部として賠償金額に含まれることになります。
一方で,紛争処理センターでの解決の場合,遅延損害金や弁護士費用は,被害者側で譲歩すべきものという取り扱いが定着しています。
損害額が大きく,遅延損害金等もそれに伴って大きくなることが予想されるケースでは,裁判による解決を目指した方がより大きな賠償額を得られる可能性があります。
2 相手方によっては裁定案の拘束力が及ばない場合がある
紛争処理センターの出す裁定案の拘束力があるのは,上述の各保険会社や共済組合に限られます。
それ以外の共済や加害者本人を相手にする場合,裁定案の拘束力が及ばないため,相手に和解を拒否されてしまうと解決することができなくなり,結局裁判を起こさないといけなくなることもあります。
3 自動車やバイクの絡む事故でないといけない
自転車対歩行者の事故や自転車同士の事故では,紛争処理センターの手続きの対象とならないので注意が必要です。
このように,交通事故の解決手段は裁判だけではなく,また,その方法によりメリットデメリットがございます。
事案に応じて,最も有利な解決が期待できる手段は何かを戦略的に判断していくことが重要になります。