東京の弁護士の伊藤です。
今回も,前回に引き続き,保険会社による治療費の打ち切りについてお話したいと思います。
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1 保険会社が治療費の支払いを打ち切る理由
保険会社は,事故から3か月から6か月くらいで治療費の打ち切りを告げてくることが多いです。
これは,交通事故による典型的な怪我であるムチウチなどは,統計上3~6か月くらいの期間で治るとされているため,これ以上の期間を超えて治療費の先払いを続けると,必要ない治療費まで払いすぎてしまう可能性があると考えるのが1つの理由です。
また,通院が長引くと,当然ながら保険会社が支払うべき治療費が高額となります。
さらに,交通事故の慰謝料は通院期間の長さに応じて金額を決めるのが一般的なため,通院が長引くことは,保険会社にとって支払うべき慰謝料も増えることも意味します。
そのような事態を回避するため,治療費の支払いを打ち切ると同時に通院の終了を促すことで,支払わなければならない金額を抑えようと保険会社は考えるのです。
2 治療費の支払いを延長してもらうためには?
⑴ 主治医の判断を確認して,治療が必要であることを伝える
保険会社は一括対応を打ち切った後でも,治療の必要性がある場合には,その治療費を後から支払う必要があります。
治療の必要性があるかどうかは交通事故による怪我が「症状固定」に至っているかどうかで判断されます。
「症状固定」とは,治療の効果がなくなり,症状が変化しなくなった状態をいいます。
そして,症状固定の時期は,最終的には裁判所が判断することになるものですが,基本的には医師の判断を尊重するものとされています。
そのため,保険会社も,主治医の症状固定の判断を重視していることが多く,主治医がまだ症状固定に至っていないと判断している場合には,保険会社は打ち切りを延長して治療費を支払ってくれることもあります。
したがって,保険会社から不当に打ち切りを告げられた場合には,速やかに主治医の判断を確認し,保険会社に主治医の意見を伝えて打ち切りの延長を交渉することが考えられます。
⑵ 期限を区切る
保険会社は治療費の先払いがいつまで続くかわからないのを非常に嫌がるので,たとえば「〇月までは一括対応を続けてほしい」と期限を区切って延長を求めれば,期間にもよりますが対応してくれる可能性があります。
⑶ 保険会社から通院の条件が付される場合がある
一括対応の延長の交渉の中で,相手から延長の条件が出されることがあります。
たとえば,治療する部位を減らすよう求められたり,自由診療ではなく健康保険の範囲で治療するよう求められたりすることがあります。
治療方法が制限されることになるので,お体の回復具合なども勘案して応じるかどうかを判断する必要があります。
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今回は,保険会社が治療費を打ち切る理由と打ち切りを延長するための手段の一例を紹介しました。
それでも保険会社が一括対応の延長に応じない場合,以降の症状固定までの治療費は,一旦被害者自身が負担し,示談段階で保険会社に請求することになります。
その場合の治療費の負担をどうやって抑えるかは,また次回のブログでご紹介したいと思います。