こんにちは。
東京の弁護士の伊藤です。
前回は自営業者の休業損害についてお話ししましたが,今回も同じく休業損害で問題となることの多い,主婦の休業損害についてお話させていただきたいと思います。
1 主婦にも休業損害は発生する
主婦が交通事故に遭ってしまった場合,家事ができなくなったとしても現実に金銭的な減収はないので,休業損害は発生しないと思われている方もいらっしゃいます。
しかし,主婦の家事労働には,家族が外で働くことをサポートする「内助の功」があります。
また,仮に主婦の家事を他人に依頼するのであれば相当の対価を要するはずです。
そのため,主婦が交通事故に遭った場合,その影響でできなくなった家事労働には財産的価値があり,これを休業損害を請求することが可能です。
2 主婦の休業損害の計算方法
主婦の休業損害は,日額と休業日数を掛け合わせて計算するのが基本となります。
ただし,日額と休業日数の考え方は自賠責保険の基準と裁判所の基準とで考え方が異なっています。
⑴ 自賠責保険の基準
自賠責保険の基準では,日額は1日当たり5700円で計算します。
休業日数は,原則として通院した日数で計算します。
⑵ 裁判所の基準
裁判所の基準では,女性の全年齢の平均賃金を365日で割ったものを日額とするのが一般的です。
平成30年11月時点で公表されている最新の統計に基づくと,日額は1万0351円となります。
休業した期間は,事故の大きさや症状の重さを考慮して認定されます。
また,家事への支障は症状が回復するにしたがって減少していくと考えるのが自然ですので,その点も考慮されます。
たとえば,事故直後1週間は100%の家事への支障があり,その後の1か月は50%,さらにその後の1か月は25%・・・と次第に影響は少なくなっていくと考えることがあります。
金額の計算でもその割合に応じて認定することが多いです。
3 兼業主婦の場合
最近では主婦として家事をしながら,外で仕事をして給与所得を得ている人も大勢いらっしゃいます。
このような兼業主婦の場合でも,主婦としての休業損害を受け取ることは可能です。
ただし,主婦としての休業損害と給与所得者としての休業損害を両方受け取るということはできないという取り扱いになっています。
たとえば,福岡地裁平成26年2月13日判決は,
「このような兼業主婦の場合,専業主婦についても,女性労働者の平均賃金額を基礎として,家事労働に従事できなかった期間について休業損害が認められることとの均衡等に鑑み,現実の収入額と女性労働者の平均賃金額のいずれか高い方を基礎収入とするのが相当であると解される。」
と判断しています。
4 適切な賠償金を受け取るために
主婦の休業損害は被害者の方がもらえると思っていないケースが多くあります。
そして,相手の保険会社も被害者に対して何も伝えないまま,休業損害が計算に入っていない示談案を提案してくることが少なくありません。
本来もらえるべき賠償金がもらえなくなってしまうということにならないよう,特に注意していただきたいと思います。