葬儀費用を亡くなった方のお金で支払ったら相続放棄できないのか?

弁護士法人心では相続のご相談を広く取り扱っており、私はその中でも相続放棄のご相談などを対応させていただいております。


この相続放棄という手続きについて、某NHKの朝の情報番組で取り上げられたそうで、SNSでもトレンドに上がるなど話題になっていたようです。


その番組の中で、「亡くなった人のお金で葬儀費用を支払った場合は相続放棄ができなくなる」という説明があったようです。


しかしながら、この説明は必ずしも正確ではないといえます。


故人の遺産から葬儀費用を支払った場合でも、相続放棄は認められるケースはあります。


たとえば、裁判例では以下のように判示して、葬儀費用を遺産で支払った人の相続放棄を認めています。



大阪高裁平成14年7月3日決定

「葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。そして、その時期を予想することは困難であり、葬儀を執り行うためには、必ず相当額の支出を伴うものである。

これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。

また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。

したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないというべきである。」


また、上記裁判例のケースでは、葬儀費用の他に仏壇や墓石の購入費用も遺産から支出していましたが、結論として相続放棄を認めています。


もっとも、葬儀費用であればありとあらゆるケースで相続放棄が認められるとは限りません。


たとえば、葬儀があまりに華美であったために葬儀費用も高額になった場合などは、社会的見地から見ていくらなんでも不相当であるから相続放棄は認めないという結論もあり得ると思われます。


また、35日や49日、さらには1周忌の法要などは、上記裁判例でいうところの「その時期を予想することは困難」とはいえないでしょうから、祭祀の主催者が費用を負担すべきであり、故人の財産を使ってはいけないという結論になろうかと思います。


結局のところはケースバイケースであるため、相続放棄を考えている方は弁護士に相談いただくのが望ましいかと思います。